インフレの定着、地政学的な分断、そして各国の金融政策の転換点。現代の投資環境は、これまでの常識が通用しない「複合的な変革期」にあります。これまで分散投資の王道とされてきた「株式60:債券40」のポートフォリオ理論は、その有効性に限界が見え始めています。
こうした中、新たな投資の解として注目されているのが、株式とコモディティ(金)を組み合わせ、さらにレバレッジを活用することで資本効率を飛躍的に高める「スタッキング(積み上げ)戦略」です。
本記事では、アモーヴァ・アセットマネジメントが提供する戦略的投資信託「Tracers S&P500ゴールドプラス」および「Tracers NASDAQ100ゴールドプラス」について、その革新的な設計から運用コスト、リスク特性までをできる限り詳細に解説します。
運用会社「アモーヴァ・アセットマネジメント」の変革
まず、本ファンドを運用する主体の背景を理解しておく必要があります。2025年9月1日、日興アセットマネジメントは「アモーヴァ・アセットマネジメント(Amova Asset Management)」へと社名を変更しました。
「Move」と「Nova」に込められた哲学
新社名の「Amova」は、「Asset Management(資産運用)」に「Move(進化させる・動かす)」と「Nova(新しい)」を組み合わせた造語です。三井住友トラストグループの傘下にありながら、グローバルな運用体制と日本のきめ細やかなサービスを融合させた「日本本社のグローバル運用会社」としての立ち位置を明確にしています。
同社が掲げる「Clothing, Food, Housing, and Investment Trusts(衣食住・投信)」というコンセプトは、投資信託を生活インフラとして定着させることを目指しています。その戦略的プロダクトである「Tracers」シリーズは、低コストでルールに基づいた運用を行い、投資家のための「道具(ツール)」としての機能性を追求しています。
商品設計:純資産200%運用のメカニズム

「Tracers ゴールドプラス」シリーズの最大の特徴は、純資産の2倍(200%)相当のエクスポージャーを構築するレバレッジ構造にあります。
「スタッキング戦略」による資本効率の向上
本ファンドは、投資家から預かった資金を証拠金として活用し、以下の2つの資産に対してそれぞれ100%の投資を行います。
| 構成要素 | 投資対象資産 | 投資比率(対純資産) | 投資手法 |
| 成長資産 | 米国株式(S&P500 / NASDAQ100) | 100% | 指数先物取引(一部現物を含む) |
| 防衛・実物資産 | 金(ゴールド) | 100% | 金先物取引(COMEX金先物等) |
| 合計 | – | 200% | レバレッジ運用 |
通常、株式と金を50:50で保有しようとすると、資金を半分ずつ分ける必要があり、それぞれのリターン寄与度は半分になります。しかし本ファンドは、「1つの資金で、株式100%+金100%のポジション」を同時に持つため、1つの財布で2つの財布分の運用益を追求できる設計となっています。
S&P500版とNASDAQ100版の特性
投資家は自身の許容リスクに応じて、2つの指数から選択することができます。
- S&P500ゴールドプラス: 米国大型株約500銘柄に分散。セクターのバランスが良く、ボラティリティは相対的に低めです。金との組み合わせにおいて、ポートフォリオの「コア(中核)」としての安定感が期待されます。
- NASDAQ100ゴールドプラス: ハイテク株比率が極めて高く、成長性が高い一方で金利上昇に弱い特性があります。金も金利がつかない資産であるため、金利上昇局面では「ダブルパンチ」のリスクがありますが、緩和局面では爆発的なリターンが期待できる「スパイス」的な存在です。
投資家が直視すべき「コスト」と「為替」の深層

高いリターンの裏側には、レバレッジ商品特有の構造的コストが存在します。
先物取引に伴う「負のキャリー」
先物価格は理論上、現物価格に金利分(キャリーコスト)を上乗せして取引されます。
F = S × e(r – q)T
(F:先物価格、S:現物価格、r:無リスク金利、q:配当利回り、T:期間)
- 金利コスト: 実質的に純資産の100%相当を借入して運用している状態に近いため、米国の短期金利(SOFR)相当の負担が発生します。2025年現在の金利水準では、年間約4%〜5%程度のコストが基準価額を押し下げる要因となります。
- ロールオーバー・コスト: 先物の期限が来るたびに次の限月へ乗り換える際、期先の価格が高い「コンタンゴ(順鞘)」の状態であれば、実質的に減価要因となります。
為替リスクの「非対称性」
本ファンドは原則として為替ヘッジを行いませんが、その挙動は一般的な現物投資とは異なります。
- 運用初期: 証拠金部分と先物の損益部分のみが為替変動の影響を受けるため、円安による基準価額の上昇メリットは現物投資よりも限定的です。
- 利益拡大期: 利益が積み上がるにつれ、その利益(ドル建て評価益)に対する為替感応度が高まります。つまり、「儲かれば儲かるほど、円高局面でのダメージが大きくなる」という動的な特性を持っています。
パフォーマンス分析:驚異的な実績とその背景

2022年の設定以来、本シリーズは目を見張る実績を残しています。
定量的評価(2025年12月末時点)
「S&P500ゴールドプラス」のデータを見ると、その効率性の高さが分かります。
| 指標(年率換算) | 数値 | 評価 |
| 直近1年リターン | +77.06% | S&P500単体を圧倒するアウトパフォーム |
| リスク(標準偏差) | 22.09% | 200%レバレッジとしては抑制されている |
| シャープレシオ | 2.68 | リスク当たりのリターン効率が極めて優秀 |
| 純資産総額 | 1,039.16億円 | 機関投資家も利用可能な十分な流動性 |
この高パフォーマンスの背景には、株式と金が互いの下落を補い合いながら共に上昇した「資産価格の同期(Asset Price Synchronization)」という現象があります。
NASDAQ100版のポテンシャル
2025年1月に設定されたNASDAQ100版も、12月時点で基準価額が+80.7%となるなど、S&P500版を上回る成長を見せています。シミュレーションでは、金がハイテク株の暴落時に「質への逃避」先として機能し、下落率を一定程度抑制する効果も示唆されています。
マクロ経済環境:2025年〜2026年の展望
本ファンドの将来を左右するのは、「株と金の相関関係」と「金価格のトレンド」です。
「逆相関」から「順相関」への構造変化
かつて金は株のヘッジ(逆相関)でしたが、近年は双方が同時に上昇する局面が常態化しています。
| 期間 | 相関の特性 | 背景要因 |
| 2022年 | 逆相関の機能不全 | 急激な利上げによる全資産売り相場 |
| 2023年 | 順相関の兆し | 利上げ打ち止め観測による株・金への資金流入 |
| 2024-25年 | 強い順相関 | 経済のソフトランディング期待と、通貨不信による金需要の共存 |
金価格のシナリオ分析
専門機関の分析に基づくと、2025年の金価格は以下のようなシナリオが想定されます。
- 基本シナリオ ($3,100-$3,500/oz): 緩やかな減速と中銀の金買い継続。安定的なリターンが期待される。
- 強気シナリオ ($3,500-$4,000/oz): スタグフレーションや脱ドル化の加速。株が低迷しても金が全体を牽引する。
- 弱気シナリオ ($2,700-$3,100/oz): 地政学リスクの劇的な緩和とドル高。金は調整するが、株の上昇がカバーする可能性が高い。
リスクマネジメント:注意すべき「ダウンサイド」
レバレッジ商品である以上、特有のリスクを軽視することはできません。
- ボラティリティ・ドラッグ(減価リスク):相場が上下を繰り返す「ボックス圏」では、基準価額が徐々に減少します。200%のポジションを維持するための日々のリバランスが、結果として「高く買って安く売る」行動になり、元本の回復を妨げる要因となります。
- 「相関の逆転」リスク:もしインフレ再燃により予想外の利上げが起きれば、株と金が同時に暴落する「株安・金安」局面が訪れる可能性があります。この場合、200%のレバレッジは損失を2倍以上の速度で拡大させます。
- カウンターパーティリスク:先物取引を利用しているため、市場の機能不全や取引相手の信用リスクといった、現物ファンドにはない固有のリスクも存在します。
実践的ポートフォリオ戦略
本ファンドはNISAの対象外であり、特定口座での運用が前提となります。私の視点からは、以下のような活用法が考えられます。
戦略A:資本効率の拡張(推奨)
ポートフォリオの半分を本ファンド、残り半分を現金(または短期国債)で保有する戦略です。
これにより、資金の50%を使いながら「株式50%+金50%」の市場露出を確保しつつ、残りの50%を暴落時の買い増し余力として温存できます。
戦略B:モメンタム投資
現在の「株高・金高」トレンドに乗る順張り戦略です。ただし、S&P500の200日移動平均線割れなど、トレンド転換時には速やかに撤退する厳格なルールが必要です。
戦略C:指数の使い分け
- S&P500版: 比較的長期保有も視野に入れた、ポートフォリオの中核に近いサテライト。
- NASDAQ100版: 利下げ局面など、短期〜中期的な爆発力を狙うトレーディング向け。
まとめ:新時代の「攻めの武器」として
アモーヴァ・アセットマネジメントの「Tracers ゴールドプラス」シリーズは、レバレッジ技術を駆使して「株式と金の同時保有」という最適解をパッケージ化した革新的な商品です。
- メリット: インフレや地政学リスクへの耐性、圧倒的な資本効率、そして強いモメンタム。
- デメリット: 年率4%超の金利コスト、ボラティリティによる減価、株・金の同時安リスク。
結論として、本ファンドは「買って放置する守りの資産」ではありません。マクロ経済の潮流を読み、自身の「リスク予算」の範囲内で戦略的に活用すべき「攻めの武器」です。Amovaが掲げる「Move」の精神の通り、動的に資産を増やす意志を持つ投資家にとって、これほど強力なツールは他に類を見ないでしょう。
免責事項: 本記事は情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。投資判断は最新の目論見書を必ずご確認の上、ご自身の責任において行ってください 55。


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